永々棟の十二か月

永々棟の十二か月

霜月
口切茶事と茶筅供養の試み

石橋郁子

十一月は茶人の正月と言われ、お茶人さんにとっては華やかな月です。十月まで使った風炉を仕舞い、この月からは炉を開いて嬉しく冬を迎えます。茶家でなくとも十一月最初の亥の日は、「火入れ」と呼ばれ、かつて京の家々ではこの日から住まいの暖房をすると決まっていました。亥の日である理由は、なんでも亥は十二支のうち、極陰の動物だからだそうです。陽の極みである火と対座させることで火除けの願いを託したのでしょうか。

私がまだ幼かった頃、居間の暖房は掘炬燵と練炭火鉢でした。それぞれ別の部屋には、部屋の大きさによって大小さまざまな火鉢が据えられておりました。火入れの日、掘炬燵には豆炭、練炭火鉢に練炭、火鉢には真っ赤に熾った炭と、母は忙しそうに火を入れて廻っておりました。その母の、火箸で灰を掻き上げるしぐさの美しさを忘れることができません。「大人になったら、私も上手に炭を注げる人になりたい」となぜか、幼心に大きな志に似た想いを抱いたものものです。

そんな思い出もあって私にとって「炉開き」はひとしお。旧暦の亥の日の頃の十一月二十五日、永々棟にて姉と二人で茶事を催しました。お菓子はもちろん亥子餅。猪の子どもを象った柔らかいお餅です。

席主の姉が、どうしても一度やりたかったと、その口切の日に茶筅供養もやると言い出したものですから、おめでたい口切と法事ごとの茶筅供養がドッキングして、何とも忙しい一会となりました。

傘寿を前にした姉は「体、動かすのは郁子がしてや」などと言うものですから、私は茶壺の口を切り、初炭を注ぎ、懐石を運び、酒を注いで廻りなどして、てんやわんや。さすがに濃茶、薄茶の点前は若い人に任せたものの、茶筅供養では後炭所望とするため、巴半田を持ち出して炉の炭を一旦上げ、後炭の準備を整えて客に炭を所望します。腕に覚えのある連客のお一人が後炭を注がれたあと、先ほど半田に上げた火を七輪に移して、それを庭に持ち出し、予め用意しておいた懐紙の白装束を纏った古茶筅が積まれた三宝を持ち出します。茶室の連客に動座を乞い、庭に出ていただき、連客一人ひとりが真っ赤に熾った七輪の火で茶筅を燃やしていくのです。つまり、茶筅の荼毘で、全員、般若心経を唱えながら七輪の廻りをぐるぐる廻るのです。涅槃会のお坊さんみたいに・・・・。そして茶筅を燃やしたその火で焼いた餅を水屋に下げて、用意のおぜんざいに入れて薄茶の菓子とするというもの。

姉のたっての希望とはいえ、水屋を仕切る者は忙しいといったらなく、また、お道具も多くて水屋は煩雑の極み。「茶事のテーマは、絶対に一つに絞る」と私は固く心に決めたことでした。

それにしても、わが社中の若きカメラウーマン・田口葉子ちゃんが般若心経を全部空で唱えたことは驚きでした。サワリだけ知っている人、ギャテイ、ギャテイ、ハラギャテイ、ハラソウギャテイのクライマックスだけ唱えられる人といった中で、最年少の葉子ちゃんが美声よろしく導師を務めたのですからまさにサプライズ! 三十半ばの現代女性の、意外な側面を発見したことは、今回の最も素敵な思い出となりました。

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