永々棟の十二か月

永々棟の十二か月

皐月
人形と和菓子のコラボで、『細雪』の世界に迷う

石橋郁子

人形作家であり人形舞の舞人、きものデザイナー、そして舞台衣装も手がけるホリ・ヒロシさんが、永々棟で人形舞の公演をしたいと言ってこられたのは昨年のこと。サントリーホール、京都コンサートホール、東京芸術ホールなど数々の大きなホールで公演されているホリさんが、なぜまた永々棟を所望されたのか・・・。お申し出を伺った時はにわかには信じられず、また「ほんとにお人が集まるのやろか・・・」と、普照さんともども不安な気持ちでいたのですが、その心配をよそに、チケットはあっという間に完売。ホリさんの人気のほどをその時初めて知ったことでした。

爛漫の桜も散った四月二十日、とうとうその日はやってきました。演目は細雪をテーマにした「花の段」。谷崎潤一郎が松子夫人とその姉妹をモデルにした小説の、ヒロイン雪子のイメージの人形とホリ・ヒロシさんが華麗な舞を舞われました。もちろん、人形が自ら動いて舞うはずはなく、ホリさんによって操られているのですが、ホリさんの舞台は文楽や糸人形と違い、「操る」という言葉では表現できないほどその人形は生々しいのです。妖艶な面差し、美しい着物に華麗な帯、刺繍の半襟をたっぷりと見せた切れ長の目と細い首の雪子(人形)と袴姿のホリさんが絡んだり離れたりする様は息が止まるほど美しく、誰もがその妖しさに圧倒されたに違いありません。その美をさらに盛り上げたのは木場大輔さんの哀愁を帯びた胡弓の音色と池上眞吾さんが奏でる三弦と箏の音曲、そして次第に明度を下げてゆく永々棟の二階座敷に差し込む陽光と庭の緑。

実は、ホリさんの公演が決まった時、普照さんと私は京都の大丸で開催された彼の人形舞を見ていましたので、おおよそはどういうものか想像できたのですが、永々棟のお座敷で間近に見る人形とホリさんはまさしく生きて、愛おしさもその情念を抑える切なさも、哀しみや悦び、恨みや諦めまでをも目の前で見せてくれました。表情や心情の変化は、人形を持つホリさんが顔の角度を微妙に変え、わずかに首を捻るだけ。会場にお集まりのお客さまは文字通り、息と固唾を呑んで魅了されてしまったのです。

休憩時間に茶菓の接待をしたのはいつもと同じですが、この日のお菓子はホリさんのたっての願いで末富さんにお菓子の創作をお願いしました。予め、ホリさんと末富主人の山口富蔵さんをお引き合わせして「細雪のイメージで何か考えてください」とお伝えしておいたのですが、流水に浮かぶ桜文様の袖に見立てた白いこなしの意匠と「神苑の華」という銘に、またもや私は感じ入ってしまいました。白い袖口からは翡翠色の襦袢も覗き、華麗に着飾った四姉妹が平安神宮の栖鳳池の橋上から麸を投げる様子を彷彿させてくれます。そして池の鯉と戯れる姉妹の笑い声や美しくも華麗な佇まいはまさしく「神苑の華」。山口さんの銘の付け方の巧さには定評がありますが、古典から現代までの文学、伝統芸能、クラシック音楽、書画、茶道具などに造詣深い、山口さんの奥深い教養に裏付けされたもの。「なるほど」とか、「まさしく」といった共感を感じさせてくれる銘もまた、和菓子のおいしさと楽しみの一つです。

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