永々棟の十二か月

永々棟の十二か月

長月
人間関係と文化の器-数寄屋建築

石橋郁子

改めてご紹介しますと、永々棟は数寄屋師・山本隆章棟梁が伝統的な木造建築、とりわけ数寄屋建築の技と数寄屋に象徴される種々の日本の伝統文化を次代へつなぐ一助とすべく、手間と暇と、そして財を投じて古いお屋敷を修復された館。そのコンセプトを大切にしながら、文化事業にお貸ししたり、永々棟主催のイベントなどを開催しています。

九月二十二日日曜日、京都工芸繊維大学名誉教授の中村昌生先生にお越しいただき、貴重なご講演を頂戴しました。中村先生といえば、数寄屋建築の第一人者。山本棟梁とは京都迎賓館はじめ、さまざまな茶室や文化財の修復などでお仕事をごいっしょされる関係です。当日は、建築を勉強する学生さんや大工や左官など職人さん、主婦など顔ぶれも多彩なお客さまが永々棟にお越しになりました。

貴重な中村先生のお話ですから、今回はぐっと真面目にその内容をお伝えすることにします。話題の底辺に流れるテーマはもちろん「数寄屋建築」ですが、先ずは先生、茶の湯、それも利休の作った草庵茶室の話題から話を切り出されました。それまでの茶室、例えば、武野紹鴎が作った四畳半茶室と利休が考案した二畳の茶室の決定的な違いは、「唐物を見せる空間」からの決別であったと・・・。侘茶の草庵は、いわば文字でいうひらがなで、規矩も曲尺(かね)もなく自由自在であるだけに寸法が極めて重要で、作る人の美意識次第で微妙に趣が異なってくるのも数寄屋建築の怖さだと仰る。ちなみに建築の真行草は、寺社建築の真、書院の行、草庵の草。国宝・山崎の妙喜庵待庵は利休の試みの庵で、寸法だけでなく、窓の切り方で光をもコントロールして侘数寄を表現したのだそうです。

そのこだわりの茶室もまた、利休にとっては茶道具の一つなのだというお話から、私は、なるほどと膝を打った心地がしました。ただの住まいでさえ、私たちは建物の根本の意味を忘れてしまいがちですが、茶室であれ住宅であれ、建築は威容を見せつけるものではなく、よき人間関係の器であったことを再認したのでした。高価な材料を使った豪華な住まいが立派なのではなく、人と人との温かい関係を促し、包み込む器でなければならないのだとしみじみと感じ入ったことでした。

数寄屋建築の多くは使い勝手よく美しく整えられていますが、中村先生は、その技術こそ、世界遺産に匹敵すると力説されました。ハードたる建物が遺産として残るなら、それを造る技もまた遺産なのだと・・・。「伝統を未来につなげる会」の会長も務められる先生のお言葉に、ズシンと重みを感じた職人さんが会場にたくさんいらして、私は何となくそんな「心地よい緊張の気」を感じていたのです。まして、数寄屋建築の技は「ひらがな」。日本化した建築技術の極みで、わが国が誇る技であるだけでなく、数寄屋が育んだ茶の湯や茶の湯が浸透した京都の暮らしにいたるまで計り知れない広がりがあるのだと、中村先生のお話は続きます。

そんな日本の誇りをかけて建てられた「京都迎賓館」に話題は及び、「庭屋一如」の伝統的な木造建築の原理を説かれました。京都迎賓館は、わが山本棟梁も日本座敷に関わっておられ、いまさらながら棟梁の大きさに気づいたのです。たしかに、「庭屋一如」は、国の京都迎賓館でなくても、小さな町家にも生かされています。もし、あの鰻の寝床と呼ばれ、自ら檻に入ってしまったような格子戸の町家にわずかな坪庭も奥庭もなかったら、おそらく京都に文化は育たなかっただろうし、京都人の気質もおっとりなどしていなかったであろうし、調度ひとつにも美にこだわる美しい生活文化も育ってはいなかっただろうと実感するのです。

まことに「建築は人間関係と生活文化を育む器」なのです。

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