永々棟の十二か月

永々棟の十二か月

長月
ゆく夏を惜しんで一座和楽の狂言と朝茶事

石橋郁子

永々棟、九月の催しは「狂言と朝茶事」。軽いお懐石と続薄茶でおくつろぎいただいたあと、二階の広間で狂言を楽しんでいただこうという趣向です。狂言の演目は「清水」。お茶会のために名水を汲みに「野中」という所へ清水を汲みに行く太郎冠者の失敗話で、この朝茶事のために北野天満宮の井戸水を使った今回の趣向にも適った狂言です。

九月とはいえ、まだまだ残暑厳しく、道具立ても献立もすべては軽やかに涼しげに仕立て、月をテーマとしてお客様をお迎えしました。とはいえ、あまりに早い時間の開催では却ってご迷惑だろうと、午前七時の席入。スタッフはまだ暗いうちからの準備でした。

三友居さんが特別に工夫を凝らしてくださったお献立は、朝ご飯にちょうどよい量で、お客さまたちは朝から盃も進んだ様子。老松謹製の葛焼のお菓子の後、続薄茶のお点前をしてくださったのは永々棟スタッフ・寺内浩子さん。娘時代にお茶名までとられた素敵な女性で、当日まで「いや、そんな・・・教えてくださいね」などと、自信なさ気なことをおっしゃっていましたが、なんの、流れるように美しいお点前で、時間通りに茶事が運べたのでした。

その後は、二階の座敷でお待ちかねの狂言「清水」の上演。日ごろは同志社高校の国語の先生をなさっている網谷正美さんの主とご自身は「御百姓」と名乗るお百姓兼、古筆の先生の柳本勝海さん。ただでさえ何となくユーモラスな柳本さんの太郎冠者が、主にいわれて野中へと名水を汲みに行くものの、茶の湯好きの主の度重なる我が儘に嫌気がさし、野中には鬼が出ますと嘘をついて誤魔化す話。太郎冠者が鬼の面を被って主を騙すのですが、その鬼、やたらと太郎冠者を贔屓にするものですからすぐさまバレてしまい、またしても叱られ、追いかけられてしまうというお話。朝から愉快な気分に浸った楽しい狂言でした。笑いの芸能・狂言は大きく分けて、祝福、滑稽、風刺の三つのジャンルがあるといわれます。

今回の「清水」は嘘をついて仕事をサボろうとし、ちょっと立場が優位になると調子に乗って「言わずもがな」のことまで喋ってしまう軽率な太郎冠者に、ふと自分にも思い当たるフシがあったり、我が儘な主にささやかな反抗を試みる太郎冠者にちょっと共感したり、我が儘ながら天真爛漫な主に好感をもったり・・・。そのすべてがそれぞれのお客さまのおかしみであったに違いありません。かの世阿弥が「幽玄の上階のをかし」と狂言のもつ一座和楽の祝言性を讃えたといいますが、なるほど狂言は時代を超えた人間喜劇であると感じ入ったことでした。

太郎冠者が鬼に化けるために付けた面(ルビ/おもて)は武悪と呼ばれる鬼の面。この日は、永々棟の寄付に嵯峨面の「武悪」をかけてお客さまを迎えました。この面、曲によっては閻魔大王や地獄の鬼など本物の鬼にも使われるのですが、今回の清水ではその鬼も何となく愛嬌があり、ほのぼのとユーモラス。演者・柳本さんの演技力のなせる業です。

ところで、清水に登場する名水の地「野中」は播磨国印南野(はりまのくにいなみの)。現在の兵庫県加古川市のどこかだそうです。

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