永々棟の十二か月

永々棟の十二か月

師走
今宵逢う人 みな美しき

石橋郁子

大塀造の大きな邸宅が永々棟の両隣に立ち、格調高いお屋敷が三軒並んだ景色は、平野通の町並みをいっそう風情あるものにしていました。永々棟が誕生して5年の月日のうちに、それぞれの家の事情や情勢の流れで、町並みも変わってゆきました。

いま、永々棟の両隣は板塀や瓦屋根に代わって鉄筋コンクリート造の老人ホーム。風情ある古い家と町並みを残そうと、苦心を重ねて山本棟梁が時間をかけて修復された永々棟だけが少し居心地悪気に、しかし数寄屋師の意地を秘めながら誇り高く北野の町に佇んでいます。

平成27年12月19日と20日、その永々棟で恒例のクリスマスコンサートが開かれました。この5年間、美しい演奏と楽しいトークで会場を沸かせた梅原尚子さんに変わって、今年の奏者は初お目見えの深見まどかさん。深見さんは世界の四大音楽コンクール「ロン・ティボー・クレスパン国際音楽コンクール」のピアノ部門で5位に入賞された若いピアニストです。その他にも、数々のコンクールで輝かしい成績を残されたソリストです。その深見さんが選曲したのがシューベルトやリスト、ドビュッシーなどエラールピアノを愛した18世紀から20世紀の名作曲家たちの名品。そして、永々棟の座敷床を飾った版画「グラナダの夕べ」や「雨の庭」にちなんだ曲を若々しく力強く、時には優雅に演奏されました。多くは練習曲のようでしたので、クラシック音痴の私には馴染みのない曲ばかりでしたが、会場にいらした若い数人の女性は瞬きするのも惜しいという風情で、食い入るように深見さんの手や足を見つめ、聴き入っておられました。おそらく目下音楽を勉強中の学生さんなのでしょう。研鑽を重ねて技を磨き、世界の大舞台で活躍する大先輩の一挙手一投足から何かを学ぼうとする意気込みが伝わってきて、そんな観客の風景も爽やかなコンサートでした。とはいえ私などは、今聴いている曲がとても難しい曲なんだなと想像するばかり。むしろテンポの早い曲になれば「いま、トムとジェリーが追っかけっこしているみたい」などと、見当外れの画像イメージを描きながら、それでも十分に堪能させていただいたことでした。

ただ、素人の私にとって少しもの足りなかったことは、奏者の深見まどかさんがほとんどお話にならなかったこと。拍手を受けてちょっと笑顔でお辞儀をして、すっと2階へ上がってしまわれます。おそらくそれは、大きなホールなどでの演奏の正式のマナーなのかもしれませんが、永々棟のサロンコンサートであればこそ、奏者と客はもっと親しく近づいてもいいような・・・。むしろそれが、永々棟ならではのアットホームなコンサートになるのではないかと思っています。

この日のお菓子はふわふわとした雪のようなきんとん「雪餅」。パリに留学されている深見さんのイメージを添え、フランスを彷彿させる三つの色餡が乗っていました。美しい音楽を聴いたあとで、おいしいお菓子を召し上がるお客さまたちは、どなたも和やかな表情。

私はふと、「清水へ 祇園をよぎる桜月夜 今宵逢ふ人 みな美しき」という与謝野晶子の歌を思い出しておりました。美しいものを見たり、聴いたりした時は人はみんな心が清められるということでしょうか?

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