永々棟の十二か月

永々棟の十二か月

師走
懐かしさと驚きの「音故知新」コンサート

石橋郁子

歳月人を待たずといいますが、今年ももう師走。平野の家 わざ 永々棟も四年の歳月が流れました。永々棟エラールピアノの演奏者として初年度からご協力をいただいているピアニストの梅原尚子さんのピアノコンサートも四回目で十四、十五日の二日間、大勢のお客さまを迎えて開催されました。素晴らしい演奏と楽しいトークでお馴染みとなった梅原さんの今年のテーマは「音故知新」。ピアノ曲で知る作曲家の個性や曲にまつわるエピソードを軽妙なおしゃべりとともに堪能させてくださいました。

今年の曲はモーツアルトの「きらきら星変奏曲」、ベートーベンの「月光」、平井康三郎の「荒城の月」の変奏曲、ショパンの「幻想曲」、ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」、そしてコダーイの「マロシュセーク舞曲」。

「荒城の月」の演奏では、お客さまもご一緒に歌われ、「パリのアメリカ人」では梅原さんの中学生と小学生の二人のお子さまがラッパとマラカスで共演されるなど、サロンコンサートならではの和やかで微笑ましい雰囲気が永々棟を包みました。最後の曲は今回の目玉として弾かれた曲で、梅原さん留学の折、師であった方がハンガリーの人でコダーイとの手紙のやりとりなどもあり、縁あってその手紙や写真などを梅原さんがお貰いになったとか。そんな貴重な手紙や写真をお客さまたちに見せながらの解説で、コダーイという作曲家や曲をいっそう身近に感じさせてくれました。

とりわけ私が心動かされたのが、梅原さんの母親の表情と仕草。素敵なドレスをまとい、ピアノの前ではプロピアニストの貫禄を見せる梅原さんですが、ちょっと振り返ってラッパを手に出番を待つ坊ちゃんに微笑みの合図を送られた時の表情が何とも美しく、優しかったこと…。「ああ、この方も仕事もし、妻として母として人生を懸命に生きておられるのだな」と、音楽とは別のところで感動を覚えたのでした。すでに遠い昔のようでもありますが、ついこの前まで仕事と子育ての狭間で四苦八苦していた自分を懐かしく思い出したこともあって、まさに「音故知新」。懐かしさこみ上げるコンサートでした。

毎回興味深い梅原さんのお話ですが、今回は「へーっ」というようなエピソードがたくさん盛り込まれていました。日本の子どもたちにもお馴染みの「きらきら星」の元の曲は、「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」というフランスの恋歌であったとか、ショパンの「幻想曲」の起伏の激しい曲の展開は、当時の恋人であった女流作家のジョルジュ・サンドとの恋のいきさつを彷彿させるものである、といった耳より話はほんとうに魅力的。ところでこの幻想曲の序奏は私たち日本人もお馴染みの「雪の降るまちを」のメロディーで、ここでも「へーっ!!」とサプライズ。子どもの頃、高英夫というシャンソン歌手が情感こめて歌っていた白黒のテレビ画面が目に焼き付いている私は、この曲は日本の歌だと思い込んでいたのですが、なんと、ショパンの曲だったのですね。でも日本の作曲家、中田喜直という人は、「盗作ではない」と主張したとか。たまたま同じメロディーが誕生するとういうこともあり得るのかもしれません。

ピアニスト梅原尚子さんのすばらしさは、ピアノ演奏の技だけでなく、音楽を日常の言葉や心の動きに置き換えて、分かりやすく解説してくださることだと私は思っています。この日も有名な「荒城の月」の変奏曲を「最近よくあるおかきをチョコでくるんだような…」と表現なさいます。つまり、和あり洋ありで構成された楽曲。「なるほど!」と私は膝を叩き、音だけでなく言葉における梅原さんの優れた感性にも私は心のなかで拍手を送っておりました。

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