永々棟の十二か月

永々棟の十二か月

文月
音で見せた、日本とヨーロッパの夏景色

石橋郁子

永々棟で四季をテーマに年に四回開催される「歌とピアノで楽しむ 日本の名曲とクラシック」コンサートが七月二十二日の日曜日に開催されました。この日テーマはもちろん「夏」。ピアノの植村照さんと声楽の斎藤景(ひかり)さんお二人の二度目のコンサートです。斎藤さんの澄んだ声で歌いあげる「若葉」や「宵待草」「浜辺の歌」などの日本の名曲はどこか寂しげで静かで、耳からの涼をたっぷりと感じたことでした。斎藤さんの歌声は、朝まだき海辺の風の匂い、夕暮れに聞く波のもの悲しさまで伝わってきて、さらには清流の流れる信州の山路へと誘ってくれたりします。そんな名曲を聴きながら、かつての日本人はほんとうに言葉を大切に使っていたのだと、改めて日本語の響きと音の美しさに感銘したことでした。

その後、植村照さんが同じく夏の曲を選んでのピアノ演奏。昭和初期に活躍した異色作曲家・伊福部昭の「夏祭」をテーマとした組曲ばかりを情熱的に演奏されました。曲は、「盆踊り」「七夕」「演怜(ながし)」「佞武多(ねぶた)」といずれも日本の古き祭りの記憶と音風景を管弦楽の組曲で表現したもので、先祖の霊を慰めるために一心に踊る村人たちの情景、流しの新内が語る哀切なクドキや哀愁を帯びた三味線の音色、そして武者を描いた巨大な行灯がズンズンとこちらへ押し寄せてくるような「ねぶた祭り」の迫力が伝わってきて、さまざまな夏の景色と気分を皆さまも満喫されたに違いありません。

ところで私は、斎藤さんの歌と植村さんのピアノ演奏の曲目を改めてプログラムで確認をして、初めてお二人の意図が読み取れたのでした。そうです。斎藤さんの「若葉」から始まって、植村さんの「佞武多」で終わったこの前半の音の流れで、お二人は初夏から晩夏までの日本の自然風景と心象風景を私たちに見せてくれたのでした。それと同時に、死者の霊を弔うという、わが国の盆行事の様を彷彿させることで、東日本での被災者の霊も慰めようとなさったのではないかしらと、ふと、そんなことが私の心をよぎったのでした。

休憩タイムは例のごとく、庭の見えるお座敷で冷たいお抹茶と「よ志おか」さんの寒天菓子でお寛ぎいただきました。お菓子の名は「オンディーヌ」と「ハンス」。後半の曲目も含めて、情熱的であればあるほど儚く消えてゆく夏の恋をイメージして、私がつけたのですが、決して人間の男性を愛してはいけない水の精・オンディーヌを白く透明な方、オンディーヌが恋した騎士・ハンスを褐色の方と見立てての銘です。その言葉からイメージが膨らむお菓子の銘はとても大切で、これも美味しさのひとつだと私は思っています。つまり、心に甘さを伝えるエッセンスのひとつが耳からのイメージなのですから。

後半は、お二人とも情熱的なドレスに着替えて登場。曲目もがらりと変わり、情熱的な夏の恋をテーマにしたヨーロッパの曲をピアノと歌で競演。同じ夏の恋でも、日本と西洋ではこうもイメージが違うものかと、思わぬ文化比較もできた楽しいコンサートでした。

次回、秋編は十月二十一日の日曜に開催する予定です。芸術の秋、実りの秋をお二人がどのように表現されるのか、とても楽しみです。秋のコンサートへの皆さまのお運びをお待ちしています。

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