永々棟の十二か月

永々棟の十二か月

弥生
愛らしく弥生、魅惑の卯月、永々棟の春は爛漫。

石橋郁子

永々棟がもっとも華やぐのは三月。三回目となった「雛展」を開催するとともに今年も三月三日に「少女たちのひな茶会」が催されました。昨年は小学生の少女たちが「盆略点前」、中学の乙女たちが「茶箱点前」でのおもてなしでしたが、今年は永々棟の小間に誰ケ袖棚をしつらえて薄茶点前。お菓子はもちろん桃色と萌葱色の小ぶりのひちぎり二つと雛のお椀に金平糖。これを雛道具の折敷に三光に乗せて、晴着の少女たちがお運びする姿も華やいだ一日でした。ずっと水屋でお手伝いしていた私にもこの一年にぐっと成長した少女たちの可愛らしいおもてなしぶりが目に浮かぶようでした。

今年の雛展も高津古文化会館所蔵の享保雛や古今雛、次郎左右衛門雛などの雛人形をはじめ、檜皮葺の御殿や精巧に作られた雛の調度、そしてべべドールと呼ばれるフランスのアンティーク人形などが館内いっぱい賑やかに飾られて、大勢のお客さまをお迎えしました。

多くの来館者は、豪華な衣装をまとった雛人形やエレガントなドレスのべべドールに心奪われておいでの様子でしたが、その華やぎの中でひっそりと目立たない人形に、なぜか私の目は釘付けになりました。「加茂人形」と呼ばれる体長は五センチから十センチほどの小さな人形です。顔や手は木肌を剥き出しにした木彫人形ですが、よく見ると縮緬や織物の衣装をまとっています。木目込み人形ですね。その表情はユーモラスで、どの人形もどことなく狂言師の茂山千作翁に似て、見ているだけで心が和むのです。

加茂人形の興りは、江戸時代の元文年間(1736-1741)。上賀茂神社の雑掌(神社の修理など諸仕事をする人)であった高橋忠重という人が祭祀用の調度を作った柳の木の余材で人形をこしらえたのが始まりとか。サイズが小さいのはそのためで、上賀茂神社ではこれを氏子や参詣者などに贈っていたのだそうです。雛をはじめ、公卿、能や狂言のシテ役、奴、子どもたちの戯れる様子から動物までさまざまありますが、いずれも下がり目の上がり口で、どのお人形も幸せそうに微笑んでいます。加茂人形の創始者・高橋忠重の孫・大八郎は名人とうたわれた加茂人形師だったそうですが、今では継承者も途絶え、現代人には馴染みの薄いお人形となりました。顔だけ彫塑の木目込み人形がこの木目込みの技を伝えていますが、この癒し系の加茂人形がまた誰かの手で復活しないものかしら・・・と、勝手なことを願っています。加茂人形は、近衛家の文庫「陽明文庫」にかなりの数のコレクションがあるそうですから、機会があれば拝見したいと思っています。そして、来年の「永々棟の雛展」でも、きっと加茂人形たちに会えるはず。今から楽しみにしています。

そして、四月二十日の土曜日は「ホリ・ヒロシ人形舞の会」が永々棟で開催されます。人形作家のホリ・ヒロシ先生が等身大かそれ以上に大きな自作の人形を操りながら、舞を舞われるのです。文楽と同じような芸能ですが、人形が大きいので大変重い。ホリ先生は腕を鍛えるべく、ボクシングをなさっているそうです。左手は人形を抱え、右手には舞扇を持って舞われるうち、いつしか人(ホリ・ヒロシ)と人形が溶け合い、人形だけが舞っているように見えてくる幻想的な舞台です。

今回は「花の段」と称した谷崎潤一郎の小説「細雪」をテーマとした公演で、木場大輔さんと池上眞吾さんが胡弓と三弦、箏の演奏を、細雪のイメージで菓子司・末富主人の山口富蔵さんがお菓子を作ってくださるという豪華キャスト。チケットはすでに完売となりましたが、その後お申し込みいただいた皆さま、どうか次回を楽しみにしていただきたく存じます。

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